香港碼頭日記

香港での生活を徒然なるままに、、、

「投資詐欺」と「虚構を信じる力」

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お笑い芸人の投資トラブル。真相は不明だが、報じられている記事を読む限りだと本人も騙されてかなりの損失を被ったようだ。芸人仲間にも紹介して本人が仲介手数料を懐に入れていたのならともかく、こういう場合、芸能人だと被害者であっても随分な叩かれようだ。本来であれば騙した無登録業者たちが糾弾されるべきなのに、さすがに気の毒に思う。

無登録業者に大金を預けるなんて脇が甘すぎる、というのはご尤も。でも皮肉なことにきちんと金融商品取引業者として登録しているところよりも、無登録業者のほうが巨額の投資資金を集めてしまったりすることもあるのがこの業界だ。監督官庁は登録業者に対して事細かく指導しているのだが、こうした無登録業者に眼を光らせることは出来ないのだろうか。「悪貨は良貨を駆逐する」ことになりかねないように思うのだが…。

余談になるが、登録業者だからといって信用できるわけでもなく、ひと昔前には「AIJ事件」なるものがあった。いくつもの総合型の年金基金が運用成績の良さにつられて投資していたが、実は報告されていた素晴らしい運用成績は偽りだったという詐欺事件だ。このとき年金資産を受託していた投資顧問会社は一任業者としてきちんと登録していたし、元厚生省出身で某総合型の年金基金の運用理事を務めた人間が、退任後に投資コンサルタント会社を立ち上げ、そのコンサル会社がAIJの運用商品を推奨して回っていた。まあ、とはいえ資産運用の業界関係者内では「なんかあやしいよな」という噂はかなり前からあった。そのファンドの投資戦略・運用手法を実際の市場環境と照らし合わせたときに、何度も神がかり的なパフォーマンスを出していたりする(高リターンだけでなく損失回避も含めて)のが顕著だったからだ。でもはっきり「クロ」だという確証がある訳でもないのに同業者の変な噂を流すのもよろしくない、、、そんなふうにまともな登録業者が思っている間に騙される投資家が増えていったのだろう。

今回のケースは、素人を相手にした悪質な投資詐欺だとは思うが、それでも「こんなのに騙されるなんて…」とは安易に言えないなと感じる。いや「すごい会長しか触れない土地があって」とか、騙されるほうが愚かだというネタになっていて揶揄されているようだが、人間って意外と騙される、というか、より格好よく言えば『サピエンス全史』に書かれていたように「虚構を信じる力」を持っているから発展してきた側面があるのだと思う。

たしかに「すごい会長」ではないけど、会社組織だって「あの人は超優秀。あの人についていけば間違いない!」みたいなカリスマは至る所に存在するのではないだろうか。極端な話、その人が実はさほどすごくなくても(大抵の場合、噂ほどすごくないものだ)、周りが「すごい」と祭り上げることによって、結果的に集団をまとめあげてすごい力になることもあるわけだ。

で、結局何が言いたかったのか。騙される人を叩くのはやめましょうよ、むしろその「虚構を信じる力」はうまく生かせるかもしれないのだから。叩くなら人間の「虚構を信じる力」を悪用したひとのほうでしょ、と思った次第。