香港碼頭日記

香港での生活を徒然なるままに、、、

ジャニーズ問題、そして『推しの子』

ちょっと前の話だが、故ジャニー喜多川氏による事務所の所属タレントに対する性的搾取があったとされる問題がマスメディアで報じられた。どうやら被害を受けた元アイドルからの告発はかなり昔からあったようだが、過去は大きく問題視されることなく、ジャニーズ事務所に所属するタレントたちは芸能界で重宝され、ジャニー喜多川氏はビジネス的に大きな成功を収めていたと言っていいだろう。

ところが、今回は日本のメディアではなく、英国のBBC放送の報道が発端となったようだ。ジャニーズ事務所のタレント起用とはほぼ無縁である(したがって事務所からの圧力などを意に介することのない)BBC放送が報じたのが大きかったのだろうか…。そうだとすると、これまで日本のメディアはジャニーズ事務所に忖度して、なるべく大事ならないよう計らった可能性も無きにしもあらずなわけで、何とも後味の悪いというか情けない話だ。百歩譲ってスポンサーの顔色を窺わざるを得ない民放はまだしも、NHKまでもがジャニーズ事務所ジャニー喜多川氏)に配慮して、こうした少年に対する性的搾取の問題を深堀りしてこなかったのだとすれば、酷いものだ。

こうした判断の背景として考えられるのは、やはり視聴率至上主義が跋扈しているからだろうか。結局、ジャニーズのタレントを起用すれば視聴率がとれる=ジャニーズ事務所とはなるべくよい関係を維持するのが得策である、というような考えがあったのではないかと邪推してしまう。でも、あまりにも視聴率に重きを置いて番組作りをしていると、大衆迎合的な番組しか作れなくなってしまうのではないのかな…。

社会の木鐸であるべきマスメディアは、もはや木鐸ではなく大衆の人気投票だけを気にするようになってしまっているのかもしれない…残念だし、恐ろしいことだけど。

このところ、このジャニー喜多川氏による性的搾取の話題や、歌舞伎の猿之助一家の心中事件などがあったので、「芸能界の闇」的なトピックについて知人と話していたのだが、その知人から「そういえば芸能界の裏側的な話題を盛り込んでいる『推しの子』はなかなか面白いよ」と勧められた。いや、以前から評判になっているのは気づいていて、アイドルの話だから五十路のおじさんとしてはどうもなと、なんとなく手が伸びずにいたのだが、その知人が芸能関係の会社を経営していたことと、そもそも基本的に暇なので、まずはアマプラに上がっているアニメを見てみることにした。

【推しの子】 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

これが見始めてみると、物語の初期段階から予想をはるかに超えた設定で、ついつい引き込まれていく。そして現実離れした設定ではあるのだが、芸能界に関わる人達の関係性だとか、出演者を自殺に追い込んでしまうリスクをはらんでいる恋愛リアリティーショーの裏側だとか、Youtubeを使ったマーケティング戦略だとか、かなり現実を投影した作り込みがなされているし、全体としてはサスペンスなのだけれど、ラブコメ的な要素も適度に入り混じっていて、いや久しぶりに面白かった。アマプラで観たあと、早速コミックもKindleで購入して一気に11巻まで読了。12巻の刊行が待ち遠しい。この感覚は、進撃の巨人以来かな。

アニメとコミックのギャップも特に違和感がなかったのもよかった。例えば鬼滅の刃なんかは、恐らくアクションシーンが多いこともあって、コミックよりもアニメのほうが刺さる印象があったが、推しの子の場合はコミックもアニメもどちらも良い。

文脈はネタバレになるのであえて書かないが、コミックのあるシーンで、主人公が芸能記者に対して「多くの人の心と尊厳を傷付け、人びとの醜悪な好奇心を掻き立てる」と語っている場面があり、いや本当に世の中そうした記事がネットに溢れているな…と感じた。言ってみれば前述のジャニーズの問題だって、猿之助の心中ニュースだって、そうした側面もあり、「人々の醜悪な好奇心」という言葉には、自分にもあてはまる部分があると認めなければならないだろう。自分の醜悪な好奇心が、だれかの心や尊厳を傷付けている可能性があるということ、もしくはその「だれか」はひょっとしたら自分や自分の身近な人だったときにどう感じるのかを、少し考えてみる必要があるかもしれない。